瀬田川南郷洗堰100周年記念事業
旧瀬田川南郷洗堰保存検討第4回ワークショップ開催報告

 
    平成18年7月28日(金)に「旧瀬田川南郷洗堰保存検討第4回ワークショップ」が開催されました。このワークショップは、歴史的・文化的価値を有する旧瀬田川南郷洗堰の価値を認識し、後世に受け継ぐための保存方法や今後の利活用の方法について、住民のみなさんとともに考えていこうとする取り組みです。第4回のワークショップは新たなメンバーが加わり、これまでの検討の流れと、追加のアイデア出し、モデル試行に向けた取り組みについて議論しました。
参加者の皆様よりいただきました様々なご意見を、当日のワークショップの様子とともにご報告させていただきます。
 

☆第四回ワークショップの概要
○日時 平成18年7月28日(金)
  ○会場 ウォーターステーション琵琶(アクア琵琶横)
  ○一般参加者 16名
  ○アドバイザー 岡田 昌彰(近畿大学理工学部 講師)
田中 尚人(熊本大学大学院 助教授)
1 ワークショップの趣旨
新たに加わったメンバーの皆さんと、昨年度から継続して参加しているメンバーの皆さんに、なぜ旧南郷を対象にして議論するのか?なぜ、沿川住民を中心としたワークショップで議論するのかについて説明を行いました。 洗堰の説明を聞き入る参加者のみなさん
2 これまで(平成17年度)の検討と今年度の取り組み

新たに加わったメンバーの皆さんには昨年度の検討の経緯を知ってもらうために、昨年度から継続して参加しているメンバーの皆さんには振り返りもかねて、これまでの検討の流れを説明しました。
また今年度の取り組みの目的、進め方等について説明しました。

【昨年度の検討のながれ】
旧洗堰の視察2

3 保存・利活用に向けたアイデアを募る

3グループに分かれて、「旧洗堰の保存・利活用に対する新たなアイデア」、「モデル試行でやってみたい取り組み」について議論しました。議論は第2回ワークショップで用いた6つの視点を基にして行いました。

モデル試行とは:
保存・利活用のアイデアの一部(今できること)を実際に試行してみること。実際にやってみることで、現実的な課題を明らかにしたり、新しいアイデアを導き出したりすることを目指すもの。

【6つの視点】
視点
(キーワード)
内   容
@残す 旧洗堰自体やその歴史などを“残していく”
A学ぶ・知る 旧洗堰の価値や歴史を、様々な人が“学び・知る”
B語り継ぐ・広める 旧洗堰の価値や歴史を、次世代へ“語り継ぎ”、様々な人へ“広め・周知する”
C憩う “憩い”の空間としての魅力を高める
D集う “集い”の空間としての魅力を高める
E活かす 観光など、様々に“活用する”空間とする

4 検討結果

  3グループに分かれて、議論した結果を紹介します。
第1班
憩い、学ぶ

☆旧洗堰〜大日山の視点場までの散策路の開拓と、旧洗堰周辺のサイクリングロードとの
  連携などを考える。<<優先度No1>>

  • 大日山に登ると、琵琶湖〜旧洗堰〜瀬田川下流と、その周辺を一望することができる。
    大日山は、旧洗堰を望む、特に大切な視点場ではないか。
  • 大日山の視点場を顕在化するためにも、大切な取り組み。
語り継ぐ・広める

☆語り部によって旧洗堰の歴史を伝える<<優先度No3>>

  • 旧洗堰本体のことだけではなく、建設に携わった人々の苦労、角落としの操作を行った
    人々の苦労、旧洗堰周辺の暮らしや産業(農業など)などの変遷についても伝えていく
    必要がある。
  • 文章で伝えるだけではなく、「語り部」によって話してもらったほうが、より心に響くのではないか。
    また、心象図法や地元学といった取り組みを参考にして、旧洗堰にまつわる歴史を絵巻や年表、
    マップ形式、さらに映像などにより取りまとめることで、より多くの人に関心を持ってもらえるの
    ではないか。
  • 地元や水辺協議会などと連携を図っていくことが大切。

☆コケ落としなど、旧洗堰の清掃を行う「堰洗い」を実施<<優先度No2 >>

  • 旧洗堰に触れるイベント。
  • 東京の日本橋(重要文化財)では、毎年夏場に「橋洗い」のイベントが実施され、多くの人の
    関心を集めている。

☆旧洗堰をPRする<<優先度No5>>

  • 旧洗堰に触れるイベント。全国近代化遺産連絡協議会が実施する「近代化遺産一斉公開」に
    あわせて公開事業などを実施し、パンフレットに情報を掲載してもらい、全国に広くPR。
残す

○旧洗堰の撤去されたレンガや角落としの角材を探し出し(鹿島建設が撤去を請け負ったらしい…)、
 展示してはどうか。
○旧洗堰の一部(1スパン)を切り取って、陸上に実物展示してはどうか。

集う

(再掲)☆旧洗堰〜大日山の視点場までの散策路の開拓と、旧洗堰周辺のサイクリングロードとの連携などを考える。<<優先度No1>>

  • 大日山に登ると、琵琶湖〜旧洗堰〜瀬田川下流と、その周辺を一望することができる。大日山は、旧洗堰を望む、特に大切な視点場ではないか。
  • 大日山の視点場を顕在化するためにも、大切な取り組み。
活かす

○(再掲)旧洗堰の撤去されたレンガや角落としの角材を探し出し(鹿島建設が撤去を請け負ったらしい…)、展示してはどうか。
○(再掲)旧洗堰の一部(1スパン)を切り取って、陸上に実物展示してはどうか。

○実物大の模型を展示したり、角落としの角材を展示したりしてはどうか。
○何らかの方法で旧洗堰の左右両岸を繋いで、かつての姿を再現してみたい。

☆台船を浮かべて、ジャズコンサートや能舞台などのイベントを是非行いたい。<<優先度No4>>
第2班
憩い、学ぶ

☆地域の人が集まって地域のおみやげ・特産などを売る
(人に来てもらってここに何もないのはダメ)
○川を生かした整備(親水性を高める)等により、川に触れる機会を設け、
  川の大事さを学んでもらいながら洗堰の大事さを伝える。
○長い時間この場に留まってもらえるようにする。(お土産、喫茶店、
食べ物〔昔からの地域の食べ物、ナノハナ漬け、ホタルガシなど〕など)。
○遊歩道などきれいなものを整備するより自然・風情の中で洗堰が発見出来るようにする。
○旧洗堰・かえる岩・米がし岩など周辺資源とあわせて周遊できるようにする。

語り継ぐ・広める

◎語り継ぐ、広めるが重要。
☆語り部プロジェクトを行う。

  • 「ピーヤ」の呼び名、「しじみとりの記憶」などを伝える。
  • 自然との戦いの歴史や、かつての周辺住民の想い、貝とりや水遊びなど、
    川と共存していた昔のすがたなどを伝える。
  • 昔の人の想いを伝える。
  • 地域の想いが洗堰をつくったということをしっかり伝える。

◎関心を持たせる=PRが重要。とりあえずアピールすべき。まず、人に来てもらうことが大切。
☆案内標識の設置・看板の設置(洗堰を示す、看板自体をみせる)。
☆洗堰のライトアップ(洗堰を知らせる)。
○史跡として地位を高める。
○パンフレットを地域一体に置く。
○観光で来た人に洗堰を知ってもらうため、瀬田川クルーズを南郷まで来てもらう。
○近代文化遺産の日に全国に声をかける。
○他都市の土木資源と一緒になってPRする(他の資源を知ることも重要)。

残す

☆角落としを実際に体験。
☆資料を残す。
☆パンフレットを作成してPRを行う。人が集まる所などにパンフレットを置く。

集う

☆船を洗堰近くまで運行し、川から見てもらう(瀬田川クルーズをここまでまわす)。

活かす

◎「昔の風景づくり」が大切。
○旧洗堰・かえる岩・米がし岩をライトアップする。
○楽しみの場所として、川に触れるようなことはできないか。
○(難しいかもしれないが)かつて中洲で貝とりをしていたように川に触れることができるようにしたい。
○かつてしじみをまいたりしたが、今できることで川に親しめることを行う。
○しじみなど、かつての食を集める(しじみ保存会が存在する)。
☆角材などの実物を体感する。

  • 実物大の模型を作って、みんなにさわってもらう。
  • 角落としの角材をベンチにする。

◎住民と行政の役割分担が重要。役割分担=それぞれの責任を明確にすること。

  • ゴミひろいのボランティアのケアを行う。(行政は活動のサポートが必要)
  • 核となる団体がもの言うためには社会的地位が必要。

○イベント・PRを行って、まず足を運んでもらう

<モデル試行全体について>
☆モデルは6つの視点から1つずつ選択し、モデル試行を行っては。
(すべての視点を網羅すべき)
☆モデル試行は一日ではなく1週間くらいは必要では。
第3班
憩い、学ぶ

☆角落し体験を行う。

  • 堰のまわりに矢板をうって、水位の差が生じることを見せたい。
  • 角落しの角材どんな重さか知りたい。
  • 角落しの作業がどんな苦労なのかを知りたい。

○水に流された角落としの角材がどこかの建物の建材に使われているかもしれない?
(関の津の住宅で使用されているかも)
○両岸の堰をつなぎ、歩いてわたれる吊り橋をかける。(新洗堰の歩道がせまい)

語り継ぐ・広める

☆語り部を行う。

  • 子どもに伝えていく。
  • 小学校で語り部をやると、感想文をくれるのだが、感想文を読み返すことで、
    伝えることの大事さ、伝えるべきポイントを再認識させられる。⇒語ることで
    何が大事なのかを逆に知ることができる。
  • 地域の古考にお話しを聞く機会がもてたら良い。

☆様々なテーマでガイドを行う。

  • 観光船で人に伝える。語り部ガイド、WSメンバーの一人が4月から行っている⇒今できること!
    • 4月から定期船でガイド。1時間半の間に旧洗堰、大洪水⇒治水の歴史と話している。
    • 船上で趣がある。
  • 歴史をテーマにガイドを行う。
    • 行基の時代から長い歴史を知る、伝える
残す

◎歴史を調べて残す→今あるうちに残さないといけない。
☆歴史を調べる⇒冊子としてまとめる(ある程度のものは時間をかけずに作る事ができる。)

  • 地域の古老にお話を聞き、歴史を調べ冊子にする。
  • 大人も知りたい。地域歴史クラブにも教えてほしい。興味を持つのは子どもだけじゃない。
  • 石山寺の資料はたくさんあるが、洗堰周辺の資料はあまりない。
  • 現在ある言い伝え歌を残していく⇒あまり知られていない歌がある。
    • 昔の堰の様子を歌った歌に♪32の滝洗堰 という歌詞がある。
集う

○観光ルートに取り込む。

  • 瀬田川の川沿い(特に左岸)を自転車や徒歩などで散策できるような整備がされた。
    散策路ができ、すでに色々なグループが活動している。
  • 作成したリサイクリングマップにも洗堰を載せている。
活かす

○洗堰の大きさを実際に体感する。

  • 水族館のようにガラス張りで堰柱を囲み、下までみえるようにする⇒本当の大きさを実体験できる。
  • ガラス張りにしたら角材を入れた時にどうなるのかが判る。
    • 角材がどこまで入って、どのようにして止まるのか
<保存・活用のテーマについて>
○洗堰という構造物だけでなく、周辺の生き物、環境といった視点で考えてみることが必要だと思う。

5 検討風景と発表の様子

  検討中の会場の様子と発表の様子を紹介します。
岡田昌彰先生 田中尚人先生

検討中の会場

検討内容の発表

6 アドバイザーからのコメント

 アドバイザーの先生方から、今回のワークショップについてコメントをいただきました。

PRをすることはとても大切だが、チャンスがないとPRもできない。PRの方法として、近代化遺産の全国一斉公開に旧瀬田川南郷洗堰を載せるということもありえる。また、立命館大学草津キャンパスで土木学会の全国大会が9/20〜22日にかけて開催されるが、関西支部として土木遺産等に関する企画を提案の中で、旧洗堰もその候補として上がっており、これもPRの絶好の機会である
子供たち、訪れる人たちに良さをどう伝えるかも重要な課題で、地域の小学生に来てもらって、100年の歴史を洗堰をさわることで感じてほしい。そういう意味では、百年前のレンガを見て知ることができるような仕掛け、取り組みを企画してほしい。例えば、自由な発想で、なくなった昔の洗堰の風景があるように見える仕掛けなど。こういった取り組みを活かして、それをきっかけに10年、20年と続くように、ここにいるメンバーが楽しいと思うことに取り組むことが大切だと思う。

岡田真彰先生 田中尚人先生

岡田昌彰先生

田中尚人先生

7 ふりかえりシートのご意見

 参加者の皆さんにいただいた、今回のワークショップの感想などを紹介します。

気付いたこと驚いたこと

・参加者の皆さんの関心の高さにびっくりした。
・地元には旧洗堰の思い出を持つ、熱い人がいる事を感じた。
・旧洗堰の工事の難しさを聞いて驚いた。
・同年代のメンバーだったので、考え・意見が同じであり、まとまっていた。
・「米かし岩」「かえる岩」があること。
・お歳を召した方が多く、昔日のお話をたくさん聞くことができ、参考になった。大変興味深く、もっともっとという気持ち。
・「南郷洗堰」の名称がアンケートで多かった事に驚いた。
・地元の方の参加により、また違った話も聞けたこと。(古くから伝わる歌がある等)
・4月から一番丸に乗って語り部を実行されている人がいた。
・活発な発言、発表でよかった。旧洗堰の保存だけでなく、メンバーはこの周辺の歴史的な足跡をなんとか次の世代に語りついでゆきたいという思いがあるようだ。
・1〜3回でだいたい意見が出ているようなので、もう少し違う角度から考えてみたい。
・実現しない夢のような声があった。
・だいたいの話は出たようで、あとは実行するのみ。

モデル試行でやりたいこと

・大日山の活用をぜひとも実現したい。(後日登ってみたい)

・旧堰の清掃を実現したい。

・心象図法で、若い人から老人までアピールする。
・洗堰周辺散策で、特に大日山山頂ルートへの探検と調査の実施。
・台船上でのイベント開催。
・近代文化遺産の日(10/20)の事業や登録等。
・PR、両岸に旧洗堰全景写真等の看板の設置、ライトアップ。
・一番丸を洗堰まで回すこと。瀬田川(石山〜洗堰)全一周するようなこと。
・こいのぼりを両岸から渡したロープにつるして泳がせる。
・子供たちにも実行委員に入ってもらい、季節の良い時期にイベントを実施。
・旧洗堰の東側(アクアビワ側)の一コマをガラス張りにして矢板を打ち込み、水を抜いて足元のガラスより見通しをして、角材(ケタ)の上下を機械的に動作して見る事がしたい。
・歴史を調べ冊子を作成。(洗堰のみならず、昔からの治水の歴史も含めた内容としたい。)
・有志による、語り部、ガイドなどの実施(小学校や一般の方々を対象に、歴史などを話す。)
・エコツアーの開催。

抱負・役割など

・歴史の勉強。(語り部さんから聴く方法)

・地元住民でないので旧洗堰への思いは余り大きくなく、もっとこの地域全般に渡って開発・活用のために力を結集したい。
・清掃なら、高い所でも低い所でも任せてほしい。
・環境、ネタ、地元住民もいいので、知恵の使い方で後世に残る、原点になる可能性があるのでやりがいを感じる。
・いろいろな所で役に立ちたい。
・看板を上げて、経緯・目的等を掲げる。映像もボタンを押せば見えるように、看板の内容を映像で見せる。
・子供たちに伝え、子供たちと共に考える。
・昭和11年以後、現在までの出来事を言い伝える役がしたい。
・まず、周辺歴史を記した冊子づくりに取り組みたい。
・ワークショップメンバーの他にも「琵琶湖歴史倶楽部」という同好会がこのウォーターステーションを拠点に2ヶ月ごとに発表会をしている(私もメンバーの一人)。この同好会等にも呼びかけて詳しい方を加え、冊子づくりをしてはどうかと思う。それと並行して、周辺歴史の解説(話)をするのがよい。
・もう少し考えさせてほしい。
その他感想

・小・中学生に関心を持って参画してもらいたい。

・あまり議論に時間を費やすのではなく、具体的な活動に力をそそぐ事が大切だと思います。
・陸上に実物大の模型を造るのもよいなと思った。
・百年の品物を残すということは大変な作業になるのだと感じた。
・第4回が開催された事に感謝している
・子供には地域学習等で是非見学してほしい。
・7月の集中豪雨によって、南郷洗堰の果たしている役目を目の当たりにし、 先人の偉業を深く感じた。